辞世の歌

漢文に,人が死ぬ間際に発する言葉にはすばらしい内容が込められているという文があります。(人之将死,其言也善。)
辞世,すなわち世を辞するというときに,歌を作るという習慣が日本にはありました。そのいくつかを紹介します。

有間皇子(658 刑死)
磐代(いわしろ)の 浜松が枝を 引き結び まさきくあらば また還り見む
意訳 磐代(現在の和歌山)の浜に生えている松の枝を結んで(幸運のおまじない),幸運にも生きていたら,また帰ってきて見よう。
中大兄皇子に,謀反の罪を着せられて処刑された皇子。その連行されるとき詠んだといわれる歌です(異論もあります)。

西行(1190 病没)
願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ
意訳 できるなら桜の花の咲いている下で春に死にたい。(旧暦の)二月(現在の3月末あたり)の満月の頃に。
伝説的な歌人で僧侶の西行は、この希望通りの死に様でした。

豊臣秀吉(1598 病没)
露と落ち 露と消えにし 我が身かな 難波のことは夢の又夢
意訳 露のようにこの世に生まれ落ち,露のようにはかなく消える我が身だなあ。栄華を誇った難波(大阪)のことは夢のまた夢だ。
もっとも有名な辞世の一つ。貧農から身を起こして天下を手に入れた秀吉は62歳で没しました。

浅野長矩(1701 自刃)
風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残を いかとやせむ
意訳 風に誘われて散っていく桜の花よりもまして,私は春に名残惜しさを感じている。この気持ちをどうすればいいのか。
「浅野内匠頭」といった方が有名ですね。いわゆる「忠臣蔵」の討ち入りのきっかけになった人物です。

十返舎一九(1831 病没)
此世(このよ)をば どりゃおいとまに せん香の 烟り(けむり)とともに 灰左様なら
「どれ,この世とおさらばするか」という内容を線香,煙,灰と言葉掛けをした歌で,『東海道中膝栗毛』の作者らしい辞世の句です。

高杉晋作(1867 病没)
おもしろき こともなき世を おもしろく 住みなすものは 心なりけり
意訳 おもしろくない世の中を,おもしろく生きるのは,心の持ちようによるものだなあ。
幕末の長州藩士で,騎兵隊の創始者です。

ひめゆり部隊
いわまくら かたくもあらん やすらかに ねむれとぞいのる まなびのともは
意訳 岩の枕は硬いことでしょうが,安らかに眠ってくださいと,同じ学舎の友として心から祈ります。
太平洋戦争末期,沖縄で犠牲になった女子学生たちを祀る「ひめゆりの塔」に刻まれている歌です。
 
皆さんはどう感じられたでしょうか。